モートン病(モートン神経腫)は、足指の付け根の神経が靴や歩行動作などで慢性的に圧迫され、神経が肥厚して痛みやしびれを起こす疾患です。
保存療法(手術をしない治療)の中には、インソール・薬物療法・リハビリに加えて、いわゆる「電気治療(物理療法)」があります。
モートン病における電気治療とは
電気治療とは、整形外科や整骨院・リハビリ施設で行われる、低周波治療器・干渉波治療器・超音波治療器などの電気的刺激を用いた治療全般を指します。
代表的なものには以下のような種類があります。
低周波治療(TENS:経皮的電気神経刺激療法)は皮膚表面に電極パッドを貼り、神経を低周波で刺激することで痛みを感じにくくする方法です。
干渉波治療は2種類の周波数を交差させることで深部に電気刺激を与え、血流改善や筋緊張緩和を狙う治療法です。
高周波・マイクロカレント療法は微弱な電流を流すことで、組織修復を促進しようとするものです。
超音波治療は音波の微細振動で組織の温熱効果・血流改善を図ります。
また、整形外科領域で行われる高周波電気焼灼(ラジオ波治療)は痛みの原因となる神経を焼灼する方法で、より侵襲的な手技になります。
電気治療の理論的な作用
モートン病の痛みは「神経の圧迫」と「局所の炎症」によって起こります。
電気治療で狙うのは主に鎮痛作用、血流改善、神経回復のサポート、足底筋や足部アーチの安定性向上などです。
電気刺激により末梢神経や脊髄レベルで痛み伝達が抑制されるゲートコントロール理論を応用し、痛みを感じにくくします。
さらに筋肉や周囲組織に微細な収縮を起こさせて局所の血流やリンパ循環を促進し、炎症の沈静化や代謝改善を狙います。
微弱電流は細胞レベルでのATP産生を促すとされ、神経の修復にプラスに働くという理論もあります。
電気治療の実績・エビデンス
モートン病における電気治療の実績は、保存療法の一環として広く行われていますが、手術療法やステロイド注射ほど明確なエビデンスは多くありません。
海外の整形外科文献でも、電気治療単独で神経腫そのものが縮小するという報告は乏しく、むしろ痛みを一時的に緩和する補助療法という位置づけです。
TENS(経皮的電気神経刺激)は足趾の痛みや末梢神経障害に対して鎮痛作用があることは多数の研究で示されていますが、モートン病に特化した研究は限定的です。
干渉波や微弱電流も足部痛に対する有効性は報告されていますが、神経腫自体を治すエビデンスは不足しています。
近年行われているラジオ波(高周波)焼灼は、痛みを起こす神経枝を熱で凝固する治療で、小規模な報告では痛み軽減率が高いものの、再発の可能性や長期成績はまだ検討段階です。
実際の治療の流れ
一般的に整形外科・リハビリ室・整骨院では、問診や視診・触診で痛みの場所を特定し、インソールや靴指導などの保存療法を提案しながら、併用で電気治療(10~20分程度)を週数回施行します。
症状の変化を見ながら回数を調整し、多くの場合は慢性期の症状緩和や再発予防の一環として利用されます。
電気治療のメリット・デメリット
電気治療のメリットとして、非侵襲的で安全性が高いこと、鎮痛作用が期待でき薬が使えない人にも適用できること、血流改善や疲労回復などの付随効果があることが挙げられます。
一方で、根本治療(神経腫の縮小)にはならないこと、効果に個人差が大きく持続時間が短い場合があること、長期間続けても改善しない場合は注射や手術が必要になることがデメリットです。
電気治療と歩行改善の併用
近年、モートン病の原因が足裏への過剰な荷重や痛む部分での蹴り出し動作など歩行動作の偏りにあることが注目されています。
電気治療だけでなく、歩行改善指導・足部アーチ再教育・体重移動の修正などを組み合わせることで、より持続的な改善が得られるケースが増えています。
特にゆるかかと歩きや足指の使い方指導など、足底への圧のかかり方を変えるリハビリと併用すると、痛みの再発を防ぐ可能性が高いとされています。
まとめ
モートン病の電気治療は、低周波・干渉波・微弱電流・超音波などを用いて痛み緩和や血流改善を狙う保存療法です。
神経腫そのものを治すというよりは、痛みや炎症を和らげる補助的手段として位置づけられます。
症状軽減には一定の効果があるものの根本治癒に対するエビデンスは乏しく、より持続的な改善を求める場合はインソールや歩行改善指導などと併用することが推奨されます。
数週間から数か月続けても症状が改善しない場合は、ステロイド注射や手術など次の段階の治療を検討します。
電気治療は「痛みをやわらげながら、日常生活を整える時間を稼ぐ」治療法と考えるとイメージしやすいでしょう。