足の前足部(つま先より少し手前の「ボール」部分)は、走る・歩く・立つなどの動作で大きな荷重がかかる場所です。

このため、痛みやしびれなどのトラブルが起きやすく、代表的な疾患として「モートン病(Morton’s neuroma)」と「中足骨骨頭部痛(metatarsalgia)」が挙げられます。

両者は似たような部位に症状が出るため混同されやすいですが、原因・病態・治療のアプローチに明確な違いがあります。

ここでは、両者の特徴と違いを詳しく解説します。

モートン病とは

モートン病は、足の中足骨(足指の付け根)間を走る神経が、靭帯や骨により慢性的に圧迫されて炎症・線維化を起こし、痛みやしびれを生じる病気です。

特に第3趾(中指)と第4趾(薬指)の間に多く発生します。

症状の特徴は、

  • 足指の付け根から足裏にかけて「ビリッ」と電気が走るような痛み
  • 足裏に小石が入っているような違和感
  • 足趾のしびれや感覚鈍麻
  • 歩行・ランニング・ハイヒールなどで悪化し、靴を脱ぐと楽になる

神経が主役の疾患なので、しびれや放散痛(神経に沿って広がる痛み)が目立ち、押した時にピリッと響くのが特徴です。

中足骨骨頭部痛とは

一方の「中足骨骨頭部痛(metatarsalgia)」は、神経ではなく「骨・関節・軟部組織」に由来する痛みです。

中足骨骨頭部とは、足指のつけ根の丸く膨らんだ部分のことです。

ここに過剰な荷重がかかると、皮下組織が薄くなったり、滑液包炎や疲労性の骨障害が起こり、痛みや腫れが出ます。

典型的な症状は、

  • 足指のつけ根の「真下」の痛み(ピンポイント)
  • 体重をかけるとズキッと痛む
  • タコ(胼胝)やマメができやすい
  • 長距離歩行や立位で悪化するが、しびれはほとんどない

神経痛ではなく、圧迫された部位の局所炎症・軟部組織損傷が主体のため、しびれや放散痛よりも「荷重痛」がメインになります。

原因の違い

モートン病と中足骨骨頭部痛では、原因となるメカニズムが異なります。

モートン病

横アーチの崩れや幅の狭い靴、前足部での強い着地などにより、中足骨頭部間にある「深横中足靭帯」の下を走る神経が圧迫されることで発症します。

特に女性のハイヒール、マラソンやジャンプ動作が多いスポーツ選手に多く見られます。

中足骨骨頭部痛

過剰な荷重や足の変形(開帳足・外反母趾など)により、中足骨骨頭部に繰り返し圧力がかかって軟部組織や滑液包が炎症を起こしたり、骨そのものにストレスがかかって痛みが出ます。

年齢による脂肪層の減少、肥満、長時間立ち仕事なども誘因です。

症状の違い

症状を整理すると、次のような違いがあります。

モートン病 中足骨骨頭部痛
痛みの性質 電気が走る・焼けるような痛み 鋭い圧痛・ズキズキする痛み
痛みの場所 足指の間〜足裏にかけて広がる 足指付け根の真下にピンポイント
しびれ あり ほとんどなし
小石感 あり(多い) なし
タコ・胼胝 あまりできない できやすい
増悪因子 つま先の狭い靴・前足部荷重 長時間立位・歩行・荷重

神経由来か荷重由来かで症状の出方が大きく異なるため、この表のようなポイントが診断の手がかりになります。

診断方法の違い

モートン病は問診や触診で「マルダー徴候(足趾間を側方から圧迫すると痛みやしびれが再現する現象)」を確認し、必要に応じてエコーやMRIで神経腫を確認します。

中足骨骨頭部痛はレントゲンで骨の並びや変形を評価し、滑液包炎や軟部組織の炎症をエコーで見つけます。

神経腫がなければモートン病ではなく中足骨骨頭部痛の可能性が高まります。

治療の違い

両者とも保存療法(手術をしない治療)が基本ですが、アプローチが微妙に異なります。

モートン病

まずは幅広でクッション性のある靴、前足部の圧迫を減らすインソールやパッドを使います。

痛みが強い場合はステロイド入りの神経ブロック注射で炎症を抑えることもあります。

ただし根本的には歩行・走行フォームの見直し(前足部への過剰荷重を減らす)が重要で、これを行わないと再発しやすくなります。

手術は神経腫切除などが検討されます。

中足骨骨頭部痛

こちらもまずは荷重を減らすインソールやメタタルサルパッド(中足骨パッド)で足底圧を分散します。

靴底のクッション性向上、体重管理、立ち仕事の休憩なども重要です。

滑液包炎や強い炎症がある場合は消炎鎮痛薬や物理療法が使われることもあります。

神経切除手術のような侵襲的治療はほとんど必要ありません。

両者に共通するポイント:足裏アーチと歩行改善

モートン病も中足骨骨頭部痛も、発症の背景には「横アーチ(中足骨アーチ)の低下」「足指の使い方の偏り」があります。

横アーチが潰れることで神経の通り道が狭くなり(モートン病)、同時に骨頭部への圧力が増す(中足骨骨頭部痛)ため、両者が併発することもあります。

そのため、シューズ・インソールの工夫だけでなく、歩行や走行フォームを見直して足全体に荷重を分散させることが、両者に共通する根本的な対策になります。

モートン病と中足骨骨頭部痛は違いはあれど、治し方は同じ

モートン病と中足骨骨頭部痛は、足の同じような部位に痛みを起こしますが、病態は異なります。

モートン病は神経が圧迫されて炎症・線維化する「神経の病気」で、電気が走るような痛みやしびれが特徴です。

一方、中足骨骨頭部痛は骨頭部に過剰な荷重がかかって起こる「荷重の病気」で、しびれよりも局所的な荷重痛やタコの形成が特徴です。

診断には問診・触診・画像検査が役立ち、治療はシューズ・インソールの見直しや負荷軽減が中心ですが、モートン病では神経ブロックや場合によって手術、中足骨骨頭部痛ではパッドや荷重調整が主体となります。

両者を見分けるには、痛みの性質・部位・しびれの有無・靴の影響などを丁寧に観察することが重要です。

そして、どちらの場合も根本的には「横アーチの回復」と「歩行・走行フォームの改善」が再発防止のカギです。